■終章(No.4)



レノは、14歳の時に全てのキッカケとなったあの場所へと向かった。









スラム街で一番高いあの建物は、昔と何ら変わっていなかった。





「懐かしいな…と。」






14歳の頃、紅い柱を見た時と同じ色の光が今もそこにはあった。





タークスに入って、レノは人を殺す事に全く罪悪感を感じなくなってしまった。日常的に行われる行為に…

あの頃から血は飽きる程見てきた。

頭から足先まで、赤く染まる事など別に珍しくなくなってしまっていた…。





タークスに入って…レノは色を失ってしまったのだ。赤も青も黄色も……白も…




しかし、そこには…失ったはずの紅い色が鮮明にあったのだ。





「Blood color…か。」






レノの少年時代の記憶の中にいる…あの少年も、最期は「Blood color」に染まっていた…。









「レノ…?」





ふと自分の名前を呼ばれ、目を細めた。




そこに居たのはツォンだった。





「レノ…こんな所で…サボりか?」



呆れた様な顔でレノの隣に立つ。


「ちーがいますよっと。仕事終ったついでに寄っただけですよ、と。」




「あのなレノ…それをサボりと言うんだぞ?会社に戻って任務報告、並びに報告書を書いて提出するまで仕事のうちだと何度も言っただろう?」



「あーはいはいっと(笑)」



レノの顔に悪戯な笑顔が浮かぶ。
まったく…この超真面目な上司は…。






どうやらツォンは治安の悪化が懸念される伍番街の視察に来ていたらしい。






「あの時からちっとも変わらないな…お前は…。」




「今宵の様な真っ赤な月の出た夜だったな…
まだ…子供だったお前は全身が血で染まって震えていた…。」






「んーな事もありましたね、と(笑)」



鼻で笑い、ぺろっと舌を出してみせる。

「今は平気なのか?」



「はは、平気じゃなかったら髪、こんな色に染めたりしませんって(笑)」



「そうだな…。紅い月を見るとどうしてもお前を思い出す。」



「そういえば、お前…あの時″夢″と言っていたな。あれは何なんだ?」




「いや…夢は叶いましたよ…と。
慣れてしまった今ではその美しさも……うっとおしいなんて思ったりしますけど…と。」





「??」




「それじゃあ、お先に失礼します〜と♪」




「あぁ。明日も早い。遅刻するなよ?」




「はぁい、と(笑)」




スーツのズボンのポケットに手を突っ込み、ひらひらと手を振りながら去って行くレノ。





「……まったく…手のかかる男だ…。」




溜め息と一緒にでた言葉は、不思議とすぐに笑いへと変わった。

いつもはおちゃらけて見えるタークス一のムードメーカーだが、彼が誰よりも仲間思いであるという事をツォンは知っている。











レノの「Blood color」は過去を忘れない為の戒め。そして、レノの一番好きな色…。
















地上に戻ったレノは、夜の冷たい風の吹く空を見上げた。空には相変わらず真紅の月が浮かんでいる。






「よう…ブラッド見てるか?お前はオレよりずーと近い所から見てるんだな。紅い月なんて薄気味悪いだけだぞ…と。」






「でも、綺麗な色だよな…と。」






紅い月の光は目を焼き尽すかの様に眩しい。レノは思わず額のゴーグルに手をかけた。





…ゴーグル越しの月も綺麗である。










「…次はいつになるか分かんねーけど…また紅い月が出た夜に…一緒に見ような…」













His color is a blood color.






*End*